今日は、少し難しい話を簡単に。
旧日本長期信用銀行と旧日本債券信用銀行の破たん直前の経営陣が、粉飾決算をしたとする事件があった。皆さんもご存じの通り、旧とあるだけに今は亡き銀行だ(それぞれ、新生銀行とああおぞら銀行となっている)。裁判では一審二審とも両経営陣に有罪判決が下った。そして事件後10年以上が経ち、ようやく最高裁の判決をみた。しかし、その判決内容はそれぞれで異なった。旧長銀の経営陣には「逆転無罪」が下り、旧日債銀の経営陣には「二審破棄差し戻し」となった。事件を簡単に説明すると、銀行が貸し付けていたお金が回収困難になった場合、その回収が困難な部分について引当(つまり、回収できなくなった金額だけ貸し倒れ損として計上すること)しなければならない。その、回収できなくなった金額の評価をどう計算するか、がポイントとなるが、この粉飾事件の起こる前後で旧大蔵省の貸し倒れ計上基準が変更されたのだ。当時の経営陣は、前年の甘い基準で貸し倒れを評価したことが粉飾に当たるかどうか、が裁判で争われていたわけだ。
さて、旧長銀の場合は前年の基準で貸し倒れ損を計上したことは許容範囲内で違法でない、とされておとがめなし、一方、旧日債銀の場合は、違法かどうかの見極めが足りないので一旦二審の判決は取り消され、再度高等裁判所で審理のやり直しをしなさい、ということだ。片方は完全無罪で、もう一方は決着が後回しになったことで、天と地の差だと思う。なぜならば、後者は今後長年かかってやっぱり有罪、となる可能性があるからだ。どうしてこのような差が出たかは、グループ会社への貸付金であったかどうかの違いだという。詳細を知りたい方は、新聞等の記事に譲る。
私がなぜ、この事件をブログで取り上げたかと言いますと、被告である旧日債銀の経営陣のトップ(窪田弘氏)は、私が昔税務署にいた頃の国税庁長官の一人なのだ。国税庁長官と言えば、税務行政庁のトップで当時私からすれば雲の上の人、というイメージ。しかし、この方の挨拶は何度か聞いて好感を持っていたし、別の機会にはこの方の人柄の良さも伝え聞いていた。そして退官後に日債銀のトップに天下っていったことも知っていたが、まさかこんな事件の被疑者になるとは思わなかった。今、天下りの禁止や天下り官僚を非難する論調が盛んだが、トップ官僚といえば大手銀行や会社または特殊法人などの要職を歴任して、最高の晩年を迎えるのが通例だ。しかし、窪田氏の晩年は犯罪者扱いされ、亘る舟もなく悲惨だろうと思う。そんなトップ官僚もいるのだ。
我々の業界でも、粉飾決算に加担としたとして裁判で争っている会計士がいる。中でも、カネボウ事件の被告監査担当会計士は全くの無罪を主張しているが形勢はかなり厳しそうだ。私は裁判結果についてケチをつけるつもりはないが、この手の経済事件について裁判所がまっとうな判断を下せるのかどうか、疑問を持っている。なぜならば、会計基準はこれで完全というものでなく、むしろ、その時々の経済情勢や価値観によって全く逆の理論がまかり取ってしまう可能性があるからだ。裁判は時間がかかる。それにつれて、当然経済情勢や価値観も変わってしまう。それでも、その当時の基準を冷静に見極めることがはたして裁判所にできるのだろうか?